2016年4月20日水曜日

「散歩」 谷川俊太郎

 
やめたいと思うのにやめられない

泥水をかき回すように

何度も何度も心をかき回して

濁りきった心をかかえて部屋を出た

 
山に雪が残っていた 

空に太陽が輝いていた

電線に鳥がとまっていた

道に犬を散歩させる人がいた

 
いつもの景色を眺めて歩いた

泥がだんだん沈殿していって

心は少しずつ透き通ってきて

世界がはっきり見えてきて

 
その美しさにびっくりする
谷川 俊太郎  『こころ』より